大相撲春場所の十両昇進力士は4人。
新十両は玉正鳳(29=片男波)と落合(19=宮城野)の2人。
再十両は友風(28=二所ノ関)と徳勝龍(36=木瀬)のこちらも2人と発表された。
新十両の2人は、玉正鳳=玉鷲の義弟、落合=史上初の幕下付出から所要1場所で十両昇進、現宮城野親方(元横綱・白鵬)がスカウトと共に話題性があるが、再十両組も負けてはいない。
まずは、徳勝龍。
幕下転落後、わずか1場所での関取復帰となったが、記録が伴っている。
①史上3人目の幕内最高優勝経験者からの復帰。
②戦後4番目の年長再十両。
という快挙である。
明徳義塾高校から近畿大学を経て、2009年1月場所初土俵。同期には、宝富士・貴ノ岩・皇風といった錚々たる顔ぶれ(花のロクイチ組・昭和61年度生まれの関取となった総称)
2011年11月場所新十両、2013年7月場所新入幕、幕内の壁に跳ね返されることもあったが、這い上がった。
2020年1月場所、4場所ぶりに返り咲いた幕内で、なんとあの貴闘力以来20年ぶりに幕尻優勝を14勝1敗の好成績で成し遂げる。
突き押しが多い取り口だが、優勝を決めた一番は堂々と四つに渡り合った。
優勝インタビューも話題になった。
翌2020年3月場所には、自己最高位・西前頭2枚目まで上り詰めるも、4勝11敗と大きく負け越し、2021年11月場所から7場所連続十両も負けが込み、幕下に転落し、現役続行も危ぶまれたが、わずか1場所での関取復帰は、高齢記録のおまけ付きだった。
36歳7ヶ月で迎える3月場所は、一層の円熟味を増した相撲を見せてくれるのであろうか。
そしてもう一人、友風。
現在では二所ノ関部屋所属だが、「風」=停年前の尾車部屋に所属していた力士だ。
大卒からプロ入り。
ここまで、わずか6年足らずの土俵生活だが、力士人生は波乱万丈だった。
序ノ口デビューから、8場所で新十両を決めると、その場所でいきなりの十両優勝。十両も2場所で通過。
入幕後、3場所目となる2019年9月場所には西7枚目で11勝4敗で殊勲賞を獲得。当時の横綱・鶴竜を下し、金星も記録している。翌9月場所にも鶴竜に勝って、2場所連続の金星を挙げた。
ここまで順風満帆できたと言える土俵生活が、暗転するのは2019年11月場所2日目・琴勇輝戦だった。
土俵下に転落した際に右膝を痛め、外側側副靭帯・前十字靭帯・後十字靭帯・ハムストリングの断裂、半月板損傷、大腿骨と脛骨の骨折と判明。右膝から下は皮膚、内側側副靭帯と血管1本だけが繋がっているような状態だった。
医師からは「復帰どころか歩けるまで回復できれば良い方」とまで通告を受けるほどの重症だったが、同じように現役時代ひざの大ケガで幕下から大関まで這い上がった当時の師匠(元大関琴風)からは「心も相撲も入れ替えろ。みんなケガをして這い上がってくる。やっとプロになったんだよ」と以前から押し相撲からの引き技を持ち味とする取り口を危惧しつつも、同じ苦しみを味わった者にしかわからない深みのある暖かい言葉をかけ、母親や周囲の人達からの励ましもあり、再起を決意。計4回の手術にも耐えた。
本場所を1年以上休場、土俵復帰は2021年3月場所。番付は西序二段55枚目まで落ちていた。土俵に上がることの恐怖心があったそうだが、この場所を6勝1敗で終えた。
その後も着々と勝ち越しを重ね、2022年1月場所では東幕下15枚目まで番付を戻し、十両復帰を射程圏内に捉えた。1年後の今年初場所、東2枚目で4勝3敗と勝ち越し、場所後の番付編成会議で、悲願の再十両昇進が正式に発表された。
栄光と挫折を味わった徳勝龍と友風。
相撲の力量以外にも、どん底から這い上がった精神力や人間力を見せつけてくるような怖い存在になりそうである。